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レンズの絞り羽根の動きが悪いから、自分で分解・修理してみた
今回は、レンズ修理の備忘録として、その工程を記事にして残しておきたいと思います。
昔懐かしい銀塩・フィルムカメラを趣味にしていると、カメラやレンズの調達先はその価格に安さから、決まって「ヤフオク!」や「メルカリ」といったネットオークションサイトになります。
中には未使用に近い新品同様のものもありますが、その殆どが使い古されたカメラボディやレンズを購入することになります。
私が今使用している「ペンタックスLX」は、約40年前に発売されたフィルムカメラですので、使用するレンズも必然的に、その年代に製造されたレンズとなる訳です。
当然の如く、40年程前のレンズですので、外観は新品同様でも、内部はグリースの漏れや劣化、チリや埃が詰まるなど、ヘリコイドリングや絞り環の動きが悪くなっていたりしていることが多々ある訳です。
今回修理したレンズは「SMC PENTAX-M 28mm F2.8」で、これも例外ではなく、外観やレンズ面は美しいものの、絞り羽根の開閉に粘りがあり、最小絞りに絞り込んだ状態でシャッターを切っても、絞りが最小まで閉じきらない状態でした。
開放絞りにて撮影する場合には何の問題もありませんが、絞り込んで撮影するときには、一般的なフィルム一眼レフカメラでは露出オーバーとなってしまいます。
しかし、私が使用している「ペンタックスLX」は、IDM自動露出システム(露光中の光量を積算してシャッターを制御するシステム)を採用しているため、露出計が示す値はあくまで予定値であり、実際には絞り羽根が故障により絞り込まれなかった場合でも、適正露光で撮影出来てしまうのです。
ですから、私もレンズ絞り羽根の不具合に、中々気付くことが出来なかったと言う訳です。
この不具合に気付いたのは、絞り込んで撮影した写真を見て、「視野周辺部の結像が、結構甘いレンズなんだな~。古いレンズだから仕方ないか・・・。」なんて、思っていたのですが、いくら古いレンズだからって、そんな訳無いですよね。(^_^;)
なにげに、レンズ背面に付いている、絞り羽根連動レバーをカシャカシャ動かしてみたら、「ジワジワ~ッ」ってゆっくり絞り羽根が閉じていくじゃないですか!?
とても数千分の一秒で動作するシャッターに、ついていける動きじゃありません。(^_^;)
気付いたのが遅すぎて、ヤフオク!出品者にモノ申すことも出来ないため、「ならば、自分で直してみるか!」ということになりました。(^^)
これからもオールドレンズを購入していくことを考えると、カメラボディの修理は無理でも、レンズの分解・修理・清掃程度の作業なら、自分で出来るようにしておいて、損は有りません。
さて、自分で行ったレンズ修理の結果は如何に!?
レンズの分解に必要な道具を購入
レンズ修理を行うにあたって、まず行わなければならないのは、「レンズを分解するための、専用の道具を揃えること」です。
試しに、自宅にあった安物の精密ドライバーセットを使用して、レンズのネジを回してみましたが、ネジをナメるばかりで、一向に回すことが出来ずに、断念。(^_^;)
やはり、それ専用の道具が必要となることを、直ぐさま理解しました。(^^)
私が今回揃えた、レンズ分解作業を行うための道具を、下記にてご紹介しましょう。
①VESSEL(ベッセル)Gグリップドライバー990 (+00×75精密ドライバー)
何と言っても、必ず必要となるのは、「精密ドライバー」です。
カメラレンズに使用しているネジは大なり小なりですが、上の写真のプラスドライバーである「VESSEL(ベッセル)Gグリップドライバー990」なら、これ1本で全て用が足りてしまうようです。
これって、結構不思議かも!?
安物の精密ドライバーでは全く刃が立たなかったネジが、このドライバーを使用して回してみると、「パンッ!!」という音とともに、ネジ周りにこびりついたゴミが飛び散り、一発でネジを回し緩めることが出来ました。(^^)
「モノタロウ」にて、399円(税別・送料別)にて購入しました。
②カニ目レンチ
カメラ用レンズでは、多くのものが「カニ目」と呼ばれるねじ込み方式によってレンズが組み込まれています。
プラスの精密ドライバーのみでは、レンズを分解することが出来ません。
そこで購入したのがこの「カニ目レンチ」です。
形状としては、上記写真の格子状になったものやコンパス状になったものがあるようです。
「アマゾン」にて、975円(税込・送料別)という最安値で販売されていたものを購入したしたが、このカニ目レンチで機能は十分果たせます。
片側はマイナス形状、反対側はピン形状となっていて、部所によって使い分けることが出来ます。
カメラレンズ分解には必須のアイテムでしょう。
③吸盤オープナー(JAPAN HOBBY TOOL製)
カメラレンズの前面には「飾り銘板」と呼ばれる、メーカー名やレンズ名称が記載された板状のリングが装着されています。
この「飾り銘板」は、ただねじ込まれているだけですので、何かしらで回転させれば外すことが出来るのですが、それを外す専用の道具がこの、「吸盤オープナー」です。
計6個のリング状のゴム管がセットさせていて、「飾り銘板」のサイズによって計12サイズまで対応しています。
ネットで検索したところ、イスの脚先に付けるゴムキャップや、ビニールテープ巻きで代用されている方もいましたので、必須アイテムではないかと思いますが、レンズ分解をスムーズに行うためにも、1つ持っていると便利でしょう。
「アマゾン」にて、1,764円(税込・送料別)にて購入しました。
④ピンセット
やはり必要となるのは、細かな作業には欠かすことが出来ない、「ピンセット」です。
絞り羽根を組み上げるときなど、これがないとお話になりません。
兎に角、レンズに使用されている部品は小さなものが多いため、部品を無くさないためにも必須です。
その他、レンズを吸盤にくっつけてレンズを組み上げる「レンズサッカー」と呼ばれる道具も、「アマゾン」にて1,655円(税込・送料別)にて購入しましたが、今回はレンズ前群と後群の中までは分解しませんでしたので、使用しませんでした。
SMC PENTAX-M 28mm F2.8レンズ分解・修理の手順
では早速、レンズの分解・修理作業の様子をご紹介することにしましょう。
この作業の写真を撮影したのは、レンズを分解すること4回目のときとなります。
直しては不具合が出て、また直してみては不具合が出てを繰り返しています。(^_^;)
レンズ分解3回目くらいからはもう手慣れたもので、面倒だと思っていた分解作業も、逆に楽しくなってきました。(^^)
最終的には繰り返し出ていた不具合の原因も、凡そ検討を付けることが出来たと思います。
それでは順に見ていくことにしましょう。
①まずはレンズ後側から分解作業開始
レンズの分解作業は、レンズ前面から行うか、レンズ後面から行うかのどちらかになります。
今回の絞り羽根の修理には、レンズ両面とも分解しなければ絞り羽根は外れませんので、取り敢えずネジが露出しているレンズ後面から行いました。
銀色のレンズマウントリングを止めている5個のネジを、精密ドライバーで外します。
過去に修理が無されていないレンズであれば、かなり硬くネジが固まっていると思います。
ドライバーを回すときは、「強く押しながら、ゆっくりと回すこと」です。
軽く押し当ててドライバーを回してしまうと、ネジをナメてしまいますので、渾身の力を込めて押しながらゆっくりと回さなければなりません。
今回の場合は、一度も分解されたことが無いようであり、ネジを回すと、「パンッ!!」という気持ち良い音とともにネジ目に詰まったゴミカスが飛び散り、スルッとネジが回りました。
ちなみに、セットになっている安物の精密ドライバーでは全く刃が立たなかったのですから、やはり道具は良い物を使用しなければならないですね。
レンズ後面のレンズマウントリングを外した状態が上の写真です。
これを外すと、「絞り設定リング」と「絞り値を伝達するリング」を外すことが出来ます。
上記写真が、「絞り設定リング」を引き抜いて外した状態。
「絞り設定リング」を外すと、上記写真のように小さなボールが本体側(被写界深度目盛筒)に埋まっているのが分かります。
これは、ポロッと取れますので、無くさないように保管しておきましょう。
本来はグリースがしっかりと塗られている箇所ですが、多少グリーズが切れていても「絞り設定リング」は問題なく回転させることができます。
今回はグリースアップせずにそのまま組み上げました。
上記写真は、「絞り値伝達リング」を外した状態です。
続いて、カニ目レンチを使用して、レンズ後群のレンズを取り外す作業に入ります。
レンズ後群飾り板のカニ目欠込みに、カニ目レンチのサイズを調整して合わせて、クルッと回すと、意外と簡単に飾り板が外れます。
この板を外すと、1枚のレンズだけがポロッと落ちてきますので、傷つけないように注意して保管しておきます。
レンズの向きは凸面が外部に向くようになっています。
レンズ後群を取り外します。
カニ目欠込みにカニ目レンチを合わせて回転させて取り外します。
ここでようやく、絞り羽根に到達しました。
「被写界深度目盛筒」を引き抜いて外した状態が上の写真です。
絞り羽根を開閉させるためのバネを止める器具が見えてきました。
「絞り羽根開閉バネ」が取付けられているネジ2本を回して外します。
併せて、「絞り設定リング」にテンションをかけるための、小さなバネも無くさなように保管しておきます。
レンズ後側からの分解作業は以上となります。
②続いてレンズ前側から分解作業開始
続いて、レンズ前面からの分解作業に入ります。
吸盤オープナーを使用して、「レンズ飾り銘板」を回し外します。
レンズ前群のカニ目欠込みが見えてきますので、カニ目レンチを使用して外します。
レンズ前群を外すためのカニ目欠込みは、一番外側のリング(銀色枠の直内側)です。
レンズ前群を外した状態が上記写真です。
今回は、レンズの前群&後群自体は、綺麗な状態でしたので、これ以上解体しませんでした。
レンズ前面から絞り羽根に到達することが出来ました。
絞り羽根自体を取り外すために、まずは2本のネジで止まっている「絞り羽根開閉連動ピン」を外します。
上記の状態が、「絞り羽根開閉連動ピン」を外した写真です。
手前左側に小さく見えているのが、取り外した「絞り羽根開閉連動ピン」です。
続いて、「絞り羽根可動リング」を押さえつけている「絞り羽根可動リング固定リング」を外します。
3本のネジで固定されています。
写真左下に見えるのが「絞り羽根可動リング固定リング」です。
絞り羽根には、1枚に付き2本のピンが立っていて、一方のピンは固定された「絞り羽根可動リング固定リング」の穴に差し込まれていて、もう一方のピンは可動する「絞り羽根可動リング」の穴に差し込まれています。
可動リングが回転することによって、絞り羽根が開閉するという、単純にして実によく考えられたシステムですね。
続いて、「絞り羽根可動リング」を引き抜いて、取り外します。
写真左下に見えるのが「絞り羽根可動リング」です。
今回の不具合のケースでは、この「絞り羽根可動リング」のリング側面に油がしっかりと付着しておりました。
本来、油を塗る箇所ではないため、クリーニング液を使用して、しっかりとリング側面とレンズ鏡筒内部を拭きあげました。
ちなみに、この「絞り羽根可動リング」を外すと、絞り羽がバラバラになるため、不安な方は取り外す前に絞り羽根の組み上げ状態の写真を1枚撮っておいたほうが良いでしょう。
絞り羽根の組み上げはそんなに難しくはありません。
理論的に考えて、絞り羽根の1枚目を差し込んだら、その下に重なるように2枚目の絞り羽根を組み込んでいけばOKです。
その際、「絞り羽根可動リング」とレンズ鏡筒の間に1枚差し込んだら、しっかり穴にピンを入れて、次の1枚を差し込んだら最初の1枚が外れない範囲で「絞り羽根可動リング」を僅かに持ち上げて、またピンを穴に入れるという地道な作業を繰り返していきます。
今回のレンズの絞り羽根は5枚でしたので、助かりました。
8枚とかだと、結構苦難するかも知れません。(^_^;)
③レンズの組み直し作業と新たな問題点の発見
今回のレンズ絞り羽根不具合の原因は、「油の付着」によるものでした。
それを解決しましたので、あとは順序を逆転して組み直し作業を行えば作業終了となります。
が、しかし!?
何も考えず、素直にレンズを組み直したものの、最初は絞り羽根も「スパ・スパッ」と動いておりましたが、日が経つに連れて、また絞り羽根の動きが悪くなってしまいました。(^_^;)
そこで考えてみたのですが、最初から少々疑問に思っていたことがあります。
それは
「絞り羽根可動リング固定リングのネジの部分が、接着剤により固定されていたこと」
です。
最初はより強固に止めるためだと思っていたのですが、これはおそらく、
「ネジを締め上げすぎると、絞り羽根がスムーズに開閉しないためではないのか?」
と、結論を出しました。
そこで何回か調整を重ねた結果、
「ネジを軽く締めて止まった位置から、1回転逆回しに緩めた位置で止める」
ことで、現在不具合は回避しています。
接着剤は、本来、セメダインCなどのシンナーを含んだ有機溶剤系を使用するべきなのでしょうが、しばらく様子を見るために、酢酸ビニル系の木工用ボンドを使用してネジの回転を防ぐようにしました。
上記の写真が、木工用ボンドで「絞り羽根可動リング固定リング」のネジを固定した状態です。
乾燥するまで30分~1時間ほど待つと、半透明になり、意外としっかり固定されます。
ネジが不用意に回らないようにするだけですので、木工用ボンドでも十分かも知れません。
水には弱いですが、レンズですからね。(^^)
また、「絞り羽根可動リング固定リング」を取り付ける位置は、固定(決定)されている訳ではないため、絞り羽根を動かすピンをカシャカシャと動かしながら、開放から最小まで問題なく可動する位置に固定するようにします。
組み直しが終わったら、絞り設定リングを回して問題なく開放から最小まで絞り羽根が作動しているか、十分確認する必要があります。
上記写真が木工用ボンドが乾燥して固定された状態です。
今現在、この状態で不具合が出ていないことから考えると、この施策で問題はないようです。
それにしても、こんな工業製品であるにも関わらず、微妙な調整が必要であるところが、熟練の技術職人が多数存在した1980年代の「工芸品」という感じがして、逆に好感が持てますね。
令和元年8月10日追記:
上記の修理を行ってから2週間ほどの間は、絞り羽根の開閉はスムーズに行われていましたが、また開閉に「粘り」が生じてきました。
すぐさまレンズ前面から工具を使用して分解し、「絞り羽根可動リング固定リング」のネジの閉め具合の再調整を行いました。
なぜまた絞り羽根の「粘り」がでたのかを考えてみましたが、おそらく、「絞り羽根可動リング固定リング」の微妙な傾き加減が影響しているのではないかと推測しました。
前回は「絞り羽根可動リング固定リング」を止めるネジを緩く止めましたので、回転する「絞り羽根可動リング」が内部空間でガタが生じたようです。
再調整はまず、ネジが不用意に回転しないように止めている木工用ボンドをピンセットで剥がしてから、今度はネジを弱い力で締め止まるところまで締めました。
ポイントは、3本のネジを同じ力で締めることによって、「絞り羽根可動リング」の並行性を保つようにしました。
これでまた様子を見てみることにします。
おそらくは、もっと基本に戻って、「絞り羽根」と「絞り羽根可動リング」をベンゼンや無水アルコールなどでしっかりと浸け置き洗浄すれば、このような問題も起こらないのかも知れませんが、今は都度現状対応で対処したいと思ってます。
レンズの分解が、意外と楽しいのかも知れませんね。(^^)
レンズ分解・修理作業の感想・まとめ
今回は「SMC PENTAX-M 28mm F2.8レンズ」の分解・修理・清掃について、記載いたしました。
レンズの大まかな修理作業としては上記の通りなのですが、実際には、他にも幾つか細かな作業をしています。
「絞り羽根開閉連動ピン」が、極僅かですがレンズ鏡筒本体に擦れていて、それによりきしみ音が発生しました。
今回は面倒でしたので、「クレ556」を極少量塗って、きしみ音を消しています。
本当でしたら、「絞り羽根連動ピン」をラジオペンチにて少し曲げて、隙間を広げれば油など不要なのですが、それはまた不具合が出た時に行おうと思っています。
あと、ピントリングを最短撮影距離まで繰り出した時は絞り羽根の不具合が起きないが、最長撮影距離まで縮めた時は不具合が出るというときもありました。
その理由は、「絞り羽根開閉バネ」がピントリングの撮影距離に応じて、伸びたり縮んだりすることによるものです。
ピントリングが最短撮影距離のときは、バネが多少伸びた状態となり、テンションがより掛かるため、絞り羽根が引っかからずに開閉したということです。
バネ自体を交換し、より強いテンションのバネに交換するというもの1つの方法かも知れません。
しかしながら、あまり強いバネにしてしまうと、カメラボディへの影響がどの程度あるのかが推測できないため、多少強めのバネへの交換にとどめたほうが無難のようです。
このように、1つのカメラ用レンズを分解しただけで、色々なことが分かったことは、大きな収穫だったように思います。
古い銀塩・フィルムカメラを趣味に持つ者としては、修理に関してもある程度の知識を持っていたほうが良いのかも知れませんね。
分解・修理したSMC PENTAX-M 28mm F2.8レンズ作例写真
最後に「SMC PENTAX-M 28mm F2.8レンズ」を使用した作例写真を掲載しておきます。
フィルムはT-MAX400、現像液はADOX HR-Dev現像液を使用し、20℃8分現像をしました。
【レンズ分解・修理・清掃】絞り羽根の動きの不具合を分解・修理してみた「SMC PENTAX-M 28mm F2.8レンズ」
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カメラカタログ通販サイト管理運営・執筆者。
子供の頃、カメラが好きで集めていたカメラカタログを、ネット通販で取り扱う「カメラカタログ通販」の管理運営をしています。
このネットショップサイトの運営を開始してから、自らもフィルムカメラによる写真撮影に目覚め、銀塩写真撮影を再開した、アラフィフ男です。