目次
リコーフレックスニューダイヤ(精工舎ラピッドシャッター・リケノン3群4枚レンズ仕様・1957年製)
ついに手を出してしまいました…。
あれだけ35mmフィルムで一生涯、十分楽しんでいけるとホザいていたにも関わらず、中判フィルムカメラに手を出してしまったのです!
そのきっかけは、銀座シックスにある蔦屋書店で、中判フィルムカメラであるローライフレックスで撮影された、”ビビアン・マイヤー”の写真集を見てしまい、ちょっとだけ触発されてしまったからです。
かと言って、以前から興味があった中判フィルムカメラのMamiya7やプラウベルマキナ67といった高価なカメラが購入できる訳でもなく…。
そこで、ふと思い出したのが、実家に置きっぱなしになっている、未使用の中国製フィルム二眼レフカメラ”海鴎(シーガル)”です。
このカメラ、今から35年以上前に、中国に留学していた私の姉から、中国土産として貰ったもの。
中判フィルムお試し撮影にはもってこいだと考え、すぐさま実家から送ってもらいました。
その頃、高校生だった私は、「なんと、ダサいカメラなんだ!」と、一切興味を示すことなく、現在に至ります。
この二眼レフカメラ、外観は綺麗なのですが、永年の保存状態が悪かったせいか、ミラーが腐食していて、ファインダー像は真っ暗ですし、無限大のピントも出てないし、テスト撮影の結果も、レンズが片ボケしていているなど、とても使えるシロモノではありませんでした。
そこで、「やっぱり、35mmフィルムが一番だな!」と、なれば良かったのですが、一度乗りかかった船、中判フィルムの世界にしっかり足を踏み入れてみようと思ったのです。
何はともあれ、ちゃんと写真が撮れる中判フィルムカメラが必要になります。
私が考える予算内(修理費込みで1万円以内)で検討した結果、購入したのがこのカメラです。
リコーフレックスニューダイヤです。
1957年に製造が開始されたもので、シャッターは現セイコーの精工舎製、レンズはリコーのリケノン3群4枚構成の仕様となっています。
ヤフオク!にて、4,560円で落札しました。(^^)
本当ならMamiya7かプラウベルマキナ67、それが無理ならローライコードⅣ、それも無理ならミノルタオートコードⅢ型が欲しいと思っていたのですが、それら全てが予算に合わず、このリコーフレックスニューダイヤを購入したという訳です。
勿論、ペンタ党の一員として”バケペン”(ペンタックス67)も考えましたが、予算オーバーなのと、2kgを超える重量によりアウト。
他に、写真屋さんの集合写真の定番カメラ富士フイルムGW690等も考えましたが、予算オーバーなのと、所有する引き伸ばし機が6×7のネガまでしか引き伸ばせないことによりアウトだったのです。
また、リコーフレックスの中でも数多くの型があるため、どれを購入するか、ちょっと悩みましたが、中国製海鴎(シーガル)の3群3枚構成のレンズであまり良い結果を得られなかったことから、どうしても3群4枚構成のレンズにしたかったのです。
簡単にこのリコーフレックスニューダイヤの良いところを挙げると、
- ピント調節は左右のシーソー式レバーで行うため、操作しやすいこと
- ファインダーにフレネルレンズが入っているため、比較的明るいこと
- セルフコッキング(巻上げと同時にシャッターチャージされる)ではないが、フィルム自動巻止め機構が付いていて、不便はないこと
- フィルム室内に内面反射防止用のバッフルが付いていること
- 古い二眼レフカメラは3群3枚レンズ仕様が多い中、このカメラは3群4枚仕様となっていること
そんなところでしょうか?
安い割にはしっかりと使えるカメラを購入することが出来ました。
使用するブローニー判120フィルムの選定
「デジタルカメラはセンサーで決まる!フィルムカメラは使用するフィルムで決まる!」
か、どうかは分かりませんが、使用するフィルムにより画質やトーンが変わることは間違いありませんし、また、様々なフィルムを楽しめるところがフィルムカメラの良さの一つです。
私は使用する中判120フィルムを下記2種に絞り込みました。
ローライレトロ80S
私が35mmフィルムカメラにて常用しているフィルムです。
35mm判と同様にフィルムベースは透明なポリエステルベースとなっていて、さらにハレーション防止層が追加されています。
このフィルムでの35mm判の現像データを数多く持っているので、そのままこの中判フィルムに適用できるため、撮影&現像テストを省略できることがメリットです。
イルフォードFP4プラス
イルフォードFP4プラスフィルムは、35mm判で何回か使用したことがありますが、濃い青紫色のアセテートベースによるベースフォグが、兎に角気に入らなくて、フィルムテストもそこそこに使用するのを辞めてしまいました。
しかし、この中判120フィルムは、透明なアセテートベースで出来ているため、様相は全く変わってきます。
さらにハレーション防止層も追加されています。
そして、価格も825円(税込・10%ポイント還元有り)とリーズナブルであることも大きな魅力です。
上記2種のフィルムを試し撮りしてみたのですが、中判120 フィルムのローライレトロ80Sフィルムが、35mmフィルムとはちょっと内容が異なっていて、粒子が粗いというか、乳剤にムラがあるような写りになっていたのです。
上の写真がそのテスト撮影写真。
部分拡大していないのでよく分からないかも知れませんが、イメージ的には35mm判のローライレトロ80Sのほうが、逆に粒状性が良いのでは?と思えてしまうほど。
中判120フィルムのローライレトロ80Sは、2本試し撮りしましたが、結果が同様の症状であったことから、おそらく35mm判フィルムとは違う素材や製造工程なのかも知れません。
ちょっと残念ではありましたが、中判フィルムのローライレトロ80Sは断念して、中判フィルムのイルフォードFP4プラス1種に焦点を当ててテストを進めていくこととしました。
自分好みのトーンを描くためのフィルムゾーンテストを実施
イルフォードFP4plus中判フィルムの特性曲線を現像と露出で調整する
使用するフィルムを選定したら、まずはフィルムゾーンテストをします。
フィルムゾーンテストとは、単なる”試し撮り”とは異なります。
アンセル・アダムスが提唱したゾーンシステムに従って、ゾーン0からゾーンⅩまでの11段階のトーンを記録してフィルムの特性曲線を得るテストです。
このゾーンシステムのテストフィルム作成に関しての詳細は、過去の記事”【モノクロ写真】適切なフィルムネガ濃度って?好みの写真に仕上げる現像・ISO感度・露出について”を参照して下さい。
また、現像によりフィルム特性曲線を変える方法は、私のポートフォリオ記事内”【自家調合現像液の作り方】MQタイプ高希釈高鮮鋭現像液レシピ”も参照して下さい。
このゾーンテストをすることにより、自分好みの特性曲線を描くように露出と現像を調整して近づけていきます。
このテストをするにあたっては、コスト面を考慮して、中判120 フィルムを使用せず、35mm判のイルフォードFP4を使用しました。
フィルムベースの着色の有無の違いはありますが、基本は同じ乳剤が使用されているでしょうし、36枚撮りフィルム1本で2回のゾーンテストをすることが出来ます。
私が理想とするフィルム特性曲線
今までの35mmフィルムカメラによる写真撮影で、私好みのトーンを描く写真の特性曲線を理解出来ているため、その特性曲線を目指すことにしました。
そのフィルム特性曲線は下図となります。
青色実線は、ローライレトロ80Sフィルムを、PMKパイロ現像液のB液を炭酸ナトリウム溶液に変更したものを使用して、24℃5分30秒現像、撹拌30/15/1にて現像したものです。
もう一つの赤色実線は、同フィルムを、自家調合現像液である阪川式現像液のB液を炭酸ナトリウム増量溶液に変更したもの(以下阪川式現像液(改)と表記)を使用して、24℃9分30秒現像、撹拌60/120/2にて現像したものです。
いずれも同じフィルムを使用しているため、異なる現像液を使用しても、ほぼ同様のカーブを描いていることが分かります。(PMKパイロ現像液のデータグラフに、阪川式現像液のデータグラフを近づけています)
イルフォードFP4plusのフィルム特性曲線
以前ゾーンテストした時のイルフォードFP4plus特性曲線が下図の黄色実線となります。
比較用にローライレトロ80SフィルムのPMKパイロ現像液データ(青色実線)も併せて表示しておきます。
使用した現像液は、確かではありませんがコダックD76原液を5倍希釈したような自家調合変形処方だったかと思います。
ISO80設定にて撮影し、20℃7分現像30/60/2撹拌で行いました。
見ての通り、ゾーンⅠからすぐさま立ち上がり、弱い山なりのカーブを描きながらゾーンⅩまで素直に伸びていきます。
これはどちらかというと、一般的なフィルム特性曲線であり、シャドウからハイライトまで素直にトーンを記録できるフィルムです。
しかし、私の希望する特性曲線カーブとは異なるため、これをS時カーブを描くような特性曲線に変えていく必要があります。
また、ゾーン0の数値がローライレトロ80Sの20から立ち上がっているのに比べて、イルフォードFP4plusは48から立ち上がっているのは、青紫色のフィルムベースからくるベースフォグです。
このベースフォグにより、フィルムのラチチュードはその分狭くなりますし、最大黒密度も劣ることになります。(グラフは、最大黒濃度(ネガ上の透明な未露光部分側)を0、最大純白度(ネガ上の真っ黒な部分側)を255となっています。)
イルフォードFP4plus中判フィルムはベースが透明ですので、これを考慮した特性曲線を黄色破線にて示しておきます。(以降、実線は省略してこの破線データのみ表示します)
次のゾーンテストでは、ISO200設定にて阪川式現像液(改)にて、24℃10分30秒現像30/120/2撹拌にて行いました。
上の画像の緑色破線が、追加した特性曲線です。
本来ISO125のフィルムを、ISO200設定で撮影することにより、シャドウの立ち上がりを抑えようと思ったのですが、まだまだ山なりのカーブになっていることが分かります。
さらに次のゾーンテストでは、ISO400設定にして、阪川式現像液(改)にて、20℃8分30秒現像30/120/2撹拌で行った結果が下図です。
上の画像の赤色破線が、追加した特性曲線です。
感度設定をISO400に上げるだけではなく、前回の現像温度24℃から20℃へ下げて、シャドウの立ち上がりを抑えてみました。
その結果、シャドウ域の立ち上がりをかなり抑えた状態にすることが出来ました。
ただし、ハイライトがあまり伸び切らず、ちょっと軟調になってしまいましたが、あとは現像時間を伸ばすだけで、この特性曲線カーブを保ったまま希望の特性曲線を作り上げることが出来るかと思います。
リコーフレックスニューダイヤ中判フィルムカメラでの実写テスト
大まかなフィルムゾーンテストが終わりましたので、早速実写テストをしてみました。
被写体は、トーンが比較出来るように、過去に35mmフィルムカメラで撮影したことがある場所にて実写テストしました。
イルフォードFP4plus中判120フィルムを使用して、阪川式自家調合現像液(改)で20℃9分30秒現像30/120/2撹拌にて行いました。
テスト現像時間よりも現像時間を1分伸ばした程度では、まだまだ全くの軟調でした。
しかし、陽向の撮影での結果は、悪くありません。(それでもまだまだ軟調ですが…)
そもそも、私が撮影する写真の殆どは日陰での撮影ですので、それに合わせて露出と現像を調整しています。
2回目の実写テストでは現像時間を2分伸ばして、阪川式自家調合現像液(改)使用20℃11分30秒現像30/120/2撹拌にて行いました。
ちょっとづつ調子が付いてきましたが、まだまだ軟調です。
ただ、この写真に関しては悪くありません。
3回目の実写テストでは現像時間を一気に4分伸ばして、阪川式自家調合現像液(改)使用20℃15分30秒現像30/120/2撹拌にて行いました。
ほぼ理想に近いトーンに近づいてきました。
日陰での撮影に合わせて調整していますので、陽向での撮影や陽射しが入る撮影では1ストップ(絞り1段分)アンダーに露出を調整して撮影します。
さらに現像時間を延ばして、ハイライト域をもう少し濃くすることも出来ますが(この現像液の現像能力の限界が近い)、現像時間が長すぎると疲れますので、この程度にしておきたいところです。
しかし、実験好きな私としては、さらに現像時間を2分延ばした写真も参考までに掲載しておきます。
ネガ上では、この2分現像時間を延ばしたほうが、コントラストが付いて、より適正のように感じました。
初めての中判フィルムカメラの感想・まとめ
RICOHFLEX NewDia中判フィルム二眼レフカメラについて
今回、写真歴足掛け40年にして、初めて中判フィルムカメラを使い始めた記事を書いてみました。
しかし、今回購入したフィルム二眼レフカメラ”リコーフレックスニューダイヤ”に関する記事と言うよりは、中判120フィルムの現像に関する内容が色濃くなってしまいました。
そこで、フィルム二眼レフカメラ”リコーフレックスニューダイヤ”に関して、もう少し補足しておきたいと思います。
先に記載した通りに、この中判フィルムカメラは本当に欲しかった中判フィルムカメラではありません。
長年、プリズムファインダーを覗いて撮影してきた訳ですから、今更ウエストレベルファインダーなどに、興味を抱く筈もありません。
「兎に角、使える中判フィルムカメラであれば良い」
そんな考えで選んだ中判カメラです。
しかし、不思議なことに、こんな安物フィルム二眼レフカメラに、どんどんと愛着が湧いてくるのです。
3群4枚構成のレンズは視野周辺まで十分にシャープであり、写真を撮って良い結果を残すには、十二分な性能を持っています。
ただ、レンズ貼り合わせ面のバルサムが部分的に曇っているため、多少ハイライト部にハレーションを起こしてしまいますが、それも古いレンズの醍醐味と思えてしまいます。
内部のミラーが全体的に軽く腐食しているため、新しいスパッタリングミラー(表面鏡)をカットして入れ替えようかな?と思ってしまうほど、このカメラを好きになりはじめてます。
この二眼レフ自体は4,560円でしたが、レンズフードだけはどうしても必要ですので、後に購入しました。
価格はY2フィルター付きで2,800円でしたので、それだけでカメラ本体価格の50%を超えてしまいました。(^_^;)
スパッタリングミラーとガラスカッターで3,000円程掛かりますので、総予算はちょうど1万円程ということになります。
このオモチャ、意外と長年楽しめそうですね。
イルフォードFP4plusフィルムをローライレトロ80S風フィルムに変える方法について
「安く購入した二眼レフカメラには、安いフィルムがよく似合う!」
そんな考えで選んだイルフォードFP4plus中判フィルム。
決して格安という訳ではありませんが、ローライレトロ80S中判フィルムと比べると、価格は2/3。
それでいてフィルムデジタルスキャンに向いている透明なアセテートベースに、ハレーション防止層まで追加されているのですから、使わない手はありません。
このフィルムを、現像と露出でローライレトロ80SのようなS字曲線を描く特性曲線に変えてしまおう!という、大胆?な発想は如何でしたでしょうか?
イルフォードFP4plusフィルムの実行感度はISO80前後と言われていますが(データグラフが右斜めに真っ直ぐ伸びる感度)、それを完全無視してISO400設定にて撮影し、軟調な高希釈高鮮鋭自家調合現像液で増感現像するという暴挙?!
しかし、仕上がった写真を見て、皆さんはどのように思われたでしょうか?
「このシャドウ部分が潰れてるな」
とか、技術的な指摘もあるかも知れませんが、写真はファインアートとして認められつつある現在、杓子定規なことに囚われていると、折角の写真の面白さも半減してしまうと私は思っています。
自分が感じるままに、自分が思うような結果を出すためにこそ、銀塩写真技術が存在するのだと私は思っています。
RICOHFLEX New Dia 中判フィルム二眼レフカメラを今更ながら使ってみた│カメラカタログ通販
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カメラカタログ通販サイト管理運営・執筆者。
子供の頃、カメラが好きで集めていたカメラカタログを、ネット通販で取り扱う「カメラカタログ通販」の管理運営をしています。
このネットショップサイトの運営を開始してから、自らもフィルムカメラによる写真撮影に目覚め、銀塩写真撮影を再開した、アラフィフ男です。